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東京高等裁判所 昭和22年(ナ)47号 判決

新潟縣北魚沼郡小千谷町大字〓生甲千三百八十番地

原告

大塚與次郞エ門

新潟市新潟縣廳内

被告

新潟縣選挙管理委員會

右代表者委員長

石山信次

右訴訟代理人同會書記

塚野廣榮

右當時者間の昭和二十二年(ナ)第四七号町會議員選擧当選確認事件につき當裁判所は左の如く判決する。

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負擔とする。

事実

原告は「昭和二十二年四月三十日執行の新潟縣北魚沼郡小千谷町會議員選読の當選の効力に関する訴外木島久七の訴願につき被告が爲した同年七月二十二日附裁決はこれを取消す」旨の判決を求め、その請求の原因として、(以上略)

理由

昭和二十二年四月三十日執行の新瀉縣北魚沼郡小千谷町会議員選挙において、選挙会は得票原告及び訴外山本喜一各百九十三票訴外木島久七百九十二票とし、原告及び山本喜一を當選人と定め、これを是認した同町選挙管理委員会の決定に対し、訴外木島久七より訴願を提起したところ、被告は同年七月二十二日附を以て、訴外山本喜一の得票を百九十四票、木島久七の得票を百九十三票とし、同町選挙管理委員会の右決定を取消し、原告の當選を無効とする旨裁決したことは當時者間に爭いがない。しかして本件の爭点は、右選挙において選挙会が無効とした投票中に「木島久六」「山本喜一郞」と記載せる投票が各一票存在し、しかも候補者中に木島久七、山谷久六並びに山本喜一、澤田喜一郞があつたこの点當時者間に爭いないところから、原告主張の如く右「木島久六」なる投票は候補者木島久七の姓と山谷久六の名を又「山本喜一郞」なる投票は候補者山本喜一の姓と澤田喜一郞の名を混記したものと認むべきか否かにかゝつている。よつて案ずるに無記名投票制度を採用したる町會議員の選挙においては、選挙人自身につき、候補者の何人に投票したかを調査すべきではないので、投票の記載その他の客觀的事情よりして、選挙人の意思を推認するの外はない。そこで成立に爭いない乙第三号證の二及び三(本件係爭の投票)を檢するに、その記載文字、筆勢字態配置よりしては、係爭の前記投票が原告の主張するが如く候補者木島久七の姓と山谷久六の名又候補者山本喜一の姓と澤田喜一郞の名を混記したものと認めることは相當でない。もつとも成立に爭いない乙第一号證の記載によれば、右の山谷久六、澤田喜一郞の兩名はいづれも多数の得票ありたることを認めうるが、この故を以て、直ちに係爭投票につき氏と名を個々別々に独立したものとして判断することを妥當ならしめるものでもなく、又本件選挙が都会と異なり候補者の氏名を聞き直ちに何人であるかも判断せられるような選挙人と各候補者との日常生活に直接関連をもつ下において、多数の候補者が激烈な選挙運動をなしたことは被告の明らかに爭わないところであるが、かかる選挙情勢にありたればとて選挙人が候補者二人に義理を立てる意味から一候補の姓と他の候補者の名を混記して投票したものと即断することもまた妥當ではない。證人齋藤九一郞、同関友治、同伊佐一二の各證言を以つてするも右の判断短左右するに足りない。むしろ前記第乙三号證の二及び三を記載されてあるまゝに読みかつ本件選挙が激烈な競爭の下に行われた事實を參酌して考察するときは、係爭の「木島久六」なる投票は候補者木島久七、「山本喜一郞」なる投票は候補者山本喜一の名を誤記せるものと認めるを相當とし、これを覆えして原告の前記主張を肯認するに足る證左は存在しない。しからば右係爭の投票はいづれも有効なるものと断定すべく、從つて山本喜一の得票数は百九十三票に右の一票を加えた百九十四票、木島久七の得票数は百九十二票に右一票を加えた百九十三票となり、原告及び木島久七は同得票数となるから抽籖によつていづれかが當選人と定めらるゝことゝなるものである。よつて被告が右と同見解にいて前記小千谷町選挙管理委員会の決定を取消し原告の當選を無効とする旨裁決したのは正當にして、原告の本訴請求は理由なきものといわねばならぬ。それゆえこれを棄却することゝし、訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用し、主文の如く判決する。

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